第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が始まっています。WBCは、MLB機構とMLB選手会が主催し、世界野球ソフトボール連盟が公認する、世界最高峰の国・地域別野球対抗戦です。各国代表が「世界一」を目指して戦う4年ごとの公式な国際大会であり、メジャーリーガーも参加する名実ともに野球界最高レベルの、いわば「野球のオリンピック」ともいえる大会です。
今回、日本は1次リーグで初戦の台湾戦、第2戦の韓国戦と、メジャーリーグで活躍する日本選手たちのホームラン連発で順調に勝ち進んでいるようです。しかし、家内と二人暮らしのわが家では、前回2023年大会のような熱気はなく、ひどく静かなWBCとなっています。大谷翔平、鈴木誠也、吉田正尚、山本由伸——メジャーでも一流の選手たちが揃った、まさに最強の「侍ジャパン」のはずなのに、リアルタイムで試合を観ることができないのです。
なぜか。
今回のWBCは、定額制動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)が全47試合を独占配信しているからです。その背景にあるのが放映権料の高騰です。前回2023年大会の約30億円から、今回は約150億円へと実に5倍に跳ね上がり、日本の地上波・BS各局にはもはや手の届かない水準に達しました。MLB(WBCI)は収益性を優先し、ネット動画配信を世界的に強化するNetflixと直接契約。読売新聞社などの従来のメディアを通さず、巨額の権利が一社に集中する構造が生まれたのです。
スポーツビジネスと配信市場の変化が招いた、ある意味では必然の帰結といえるかもしれません。
しかし、もうすぐ年金生活に入る田舎暮らしの身としては、WBCを観るためだけにNetflixを契約するのも、なんとも踏ん切りがつきません。「月額料金はたいしたことないし、終わったら解約すればいい」——おっしゃる通りです。ところがこのサブスクというもの、使ってもいないのに解約し忘れ、気づけば何カ月も料金を払い続けていた、というのはよくある話。「時代は変わったのですよ」と若い人には言われそうですが、やはり、新しいもの、よくわからないものには手が出ません。
さらには、TVニュースに流れる試合映像が少なくなっているように思えます。テレビ各局はニュース番組で試合のハイライトを流すにもNetflixに高額な映像使用料を支払わなければならないからなのかもしれません。球場に足を運ぶ積極派のファンや、Netflixで配信を楽しんでいる方々に水を差すつもりはありません。ただ、普段はプロ野球すら観ないにわかの大リーグファンとしては、少し寂しい気がしています。
そしてもう一つ、今のわたしが素直にWBCを楽しめない、より深刻な理由があります。
ちょうど同じ時期に、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃という痛ましい出来事が起きているのです。今回の攻撃は、いくつもの意味で誤った決断だと言わざるを得ません。戦後の国際秩序と国際法の基盤を揺るがすものであり、国連を軽視し、アメリカ国内法にも反し、大統領自身の公約にも背く行為です。
この攻撃を受け、イランはホルムズ海峡を事実上封鎖しました。当然、予想されたはずの事態です。中東湾岸諸国の原油が世界へ運ばれるこの要衝を、日本が輸入する原油の約9割が通っています。この封鎖が続けば、日本はすぐにでも深刻なエネルギー不足が現実のものとなるでしょう。現在の円安と重なれば、あらゆる物価が一段階上昇するインフレが、もはや「想像」ではなく「予測」の域に入ります。さらに将来不安が長引けば、景気停滞とインフレが同時進行するスタグフレーションに陥ることも否定できません。1970年代のオイルショックを経験してきた世代としては、大変憂慮すべき事態です。
そんな状況ですから、朝のTVニュースで「大谷が満塁ホームランを打った」「鈴木誠也が2打席連続ホームラン」などと聞かされても、素直に喜べない自分がいます。
まあ、心配性な田舎暮らしの老人の独り言で済めば、それに越したことはないのですが……。
一日も早く、この紛争が終わることを願っています。